「拾われた男」松尾諭 #6 「方南町の親方の家で謝って、泣き疲れるまで泣いた日」(文春オンライン)

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上京してすぐに運良くモデル事務所に所属、ではなく預かりとなったからと言って、華々しい芸能生活が始まるわけはない。モデル事務所であるが故に美男美女向けの募集が大半で、三の線にはほとんどこないオーディションを待つばかりの日々が始まり、一銭もかせげないまま「役者です」とは言うものの、肩書だけではメシは食えるわけもなく、結果アルバイトをすることとなる。

彼女がいない事以外とくに不自由のない生活が、いつしか暗闇に落ちていく

役者にとってのバイト探しは少々面倒で、オーディションや撮影、もしくは舞台のために、休みたい時にすぐに休める職場をみつけなければならない。ただしやっとみつけても、急に休んだり、長く休んだりする事が増えるにつれ職場で疎まれることもよくあるお話だが、オーディションすらもほとんどない自称役者にとっては、そんなお話は無縁である。バイトの面接で落ちることもなく、急に休みを取るどころか、いつなんどきでも仕事に入れるガッツのあるフリーター、もとい役者くんはどの職場でも重宝された。

選んだ仕事はどの仕事もやりがいがあり、職場の方々は一部を除き面白い人ばかり。つねに2つ以上のバイトを掛け持ちし、朝から晩まで働いて、そこそこいい給料をもらって、週末になれば朝から朝まで遊んだ。役者の仕事なんてほとんどこないし、事務所からごくたまに来るオーディション受けても落ち、週に1回ある事務所のレッスンに行ってなんとなく役者であると言う気になるものの、いつしかそのレッスンよりもバイトを優先していた。東京に来てからほとんど休む間もなくバイトして、遊んで、好きなもの買って、貯金なんてこれっぽっちもなかったけど、多くの出会いがあり、彼女がいない事以外とくに不自由のない生活を送っていた。その日々はとても充実していたのだが、いつしか暗闇に落ちていく。

部屋でひとりで酒を呑む量と独り言が増えた

当時は、朝6時に起きて作業現場でタイルを貼り、夜は新宿のレンタルビデオ店でお客様に愛嬌をふりまき、仕事が終われば部屋に帰って映画を一本観つつ就寝。そんな毎日を送っていた。ある日、いつものように部屋に帰り、ソファに横になり映画を観ながら寝るはずが、最後まで映画を観終わり、そしてなおも目は冴えていた。身体は疲れているのに、まったく寝付けなかった。その日に何かがあったわけでも、次の日に遠足があるわけでもないのに、眠気がまったく来ない。眠れなくなると、世の中の事や自分の存在意義など、どうでもいいような事を考えはじめ、そしてさらに眠れなくなった。早く寝ないといけないと思うと余計に眠れなくなり、むしゃくしゃしていると、いつの間にか朝が来ていた。タイル屋の仕事は休んだ。親方に「オーディションが急に入ったので休みます」と電話すると、「バカヤロー、頑張れよ」と応援してくれた。

その日から少しずつバイトをサボるようになり、レンタルビデオ店の勤務シフトも少なくしていった。簡単に仕事を休めることに気づき、家で寝てばかりの時間が増えると、その分収入はどんどん減って行った。そして程なくして家計は赤字に突入し、引っ越しの時に足を突っ込んだ消費者金融の借入限度額を最大に変更した。この頃から部屋でひとりで酒を呑む量と独り言が増えた。

あっと言う間に借金は限度額に届き、昼間に部屋で酒を呑むようになった

消費者金融から借金するのはとても簡単だった。ATMはどこにでもあり、そのお手軽さは、金を借り入れると言うよりも、貯金から引き出すかのような感覚へといつしかなった。収入もないのに、危機感もなく、誘われれば遊びに行き、呑みに行き、DVDや新譜のレコードが出ると、惜しみなく金を使った。そしてあっと言う間に借金は限度額に届き、2社目に手を出した。審査はいともたやすく通った。この頃から昼間に部屋で酒を呑むようになった。

タイル屋のバイトにはほとんど行っていなかった。はじめはちゃんと言い訳をして休んでいたけど、いつからか連絡するのも億劫になり、そのままずるずると無断欠勤をしていた。親方は口は悪いが人柄がよく、家の食事に招いてくれたり、焼肉をよくご馳走してくれた。そんな人を裏切り続けていた。レンタルビデオ店のバイトは、遊び半分と、タダでDVDが借りられるので、週に3日くらいは夜から出勤していた。その店には、タイル屋の親方の娘さんが働いていた。これは偶然ではなく、その娘さんからタイル屋のバイトを紹介してもらったので、当然なのである。彼女は年は4つほど下だが職場では先輩で、たいてい朝番勤務で会うことはほとんどなかったが、その日はたまたまシフトが重なり、休憩所でうっかり出くわしてしまった。

「あんたさぁ、最近全然タイル屋の仕事でてないでしょ?」
「あ、ちょっと仕事が入っちゃって」
「知らないけどさぁ、ちゃんと連絡くらいしたら?」
「はい、します」

借金はすでに3桁に届こうとしており、ようやく危機感を覚えた矢先だった。次の日の正午、親方に電話を入れて謝った。「バカヤロー、明日はいいから明後日から来い」と言ってくれた。それまでずっと心につっかえていたものが取れた気がしてほっとした。そして嬉しくなってひとり、酒を呑んだ。

また親方を裏切った

次の日、昼過ぎに目が覚めた。そしてかなり久々に酒を抜き、散らかり放題の部屋を片付け新たな気持で翌日6時に起きる準備をした。ソファに横になり映画を観ながら寝るはずが、最後まで映画を観終わり、そしてなおも目は冴えていた。昼夜逆転の生活を続けていたせいだ。ただこのまま眠らない訳にはいかないし、まだ時間は九時過ぎなので、寝酒を呑むことにした。酒屋に行き、いつものようにビールを買おうとしたが、そろそろ財布の紐も固くしめるべきと考えて、安いウィスキーを数本買って少しずつ呑むことにした。アルコール度数的にみても、ビールよりもコストパフォーマンスが高いと考えたのだ。部屋に帰り、ゴッドファーザーを観ながら板チョコをかじりつつストレートでチビチビ呑った。安くてもチョコとの相性は抜群だった。

数時間後、ゴッドファーザーはPartIIに突入し、眠るどころかテンションは上がり、ひとりで下手くそな映画評論を始めていた。そしていつしかPartIIIエンドロールを迎え、窓の外は白み、ボトルは空になっていた。一睡もできなかったどころか、酔っ払っていた。酔っ払っていたので気持ちは前向きになり、開き直って2本目のボトルの栓を開けた。

呑んで呑んで呑まれて呑んで、呑んで呑み潰れて眠るまで呑んだ

目が覚めると昼過ぎだった。何かの間違いではないかとまず煙草に火を点けた。冷静になって考える間もなく、とてつもなく大きい後悔に襲われた。また親方を裏切った。お金がないのに、働かないといけないのに、親方は許してくれるだろうか。とにかく電話しないといけない、でもなんて言っていいのかわからない、きっと怒られるだろう、とりあえず呑んで勇気をつけよう、と酒を呑み、気付けば電話できるような時間ではなくなっていた。そしてまた開き直って酒を呑み、昼過ぎに起きて、後悔とともに酒を呑んだ。自分は何をしているんだ、バイトして生活を立て直さないといけないのに、いやそもそも何をしに東京来たんだっけ。そんな事から目を背けるようにまた酒を呑んだ。呑んで呑んで呑まれて呑んで、呑んで呑み潰れて眠るまで呑んだ。ただそんな日々は幸いにも長くは続かなかった。

親方の口癖のバカヤローは出なかったし、事情も聞かれなかった

借金の督促電話を無視し続けた結果、レンタルビデオ店にまで電話がかかってきて、とても恥ずかしい思いをしたので、借金を返済するために3 社目と契約した。借金を返すために借金をして、生活のためと酒を買うために借金をした結果、3社目も驚くほど早く限度額に至った。そして3社と契約した多重債務者を審査に通す消費者金融はもう見つからなかった。

逃げ出しても取り立ては地の果てまで追って来るだろうし、債務整理をする根性もなかったので、身を粉にして働く事にした。それに伴い部屋でひとりで酒を呑むのを止めようと決心した。ただそれには強い意志は必要としなかった。なぜならもう酒を買う余裕がなかったから。

方南町にある親方の家に謝りに行った。口癖のバカヤローは出なかったし、事情も聞かれなかったけど、「明日から来い」と言ってくれた。そして晩飯を食わせてくれた。

「近くまで来たから乗っけてってやるよ、バカヤロー」

部屋に帰って泣いた。自分が心底情けなくて泣いた。悲しくて酒を呑みたくなったけど、買う金もないほど借金まみれになってしまった事にまた泣いた。そして役者を志して上京した自分を思い出し、自分の周りの人々の期待や優しさを思いまた泣いた。泣いて泣いてひとり泣いて、泣いて泣き疲れて眠るまで泣いた。

翌朝、六時に起き、準備をしていると親方から電話があった。こんな時間に電話してくる事はほとんどなかったので、不安な気持ちで電話に出ると、親方は部屋の下にいた。

「近くまで来たから乗っけてってやるよ、バカヤロー」

もう裏切るわけにはいかなかったし、生活のためにサボるわけにもいかなかった。このまま一年間、必死に働けば、借金完済も不可能ではなかったのだが、程なくして本当にオーディションが来るようになり、そして役者としての仕事のためにバイトを休まざるを得なくなり、そこに不景気も重なって、タイル屋はついにクビになり、幸か不幸かバイトをするのもままならなくなったが故に巻き起こった、なかなか減らない借金との永きに渡る泥沼の闘いの物語は、また別のお話で。

松尾 諭

 

 bil*****

世に出る人何かある。運もあるし、人の出会いも良い、

 。。

やっぱり運はあると思う。そして、きっとこの人は持っている。遠縁の子が役者になったと最近聞き、ドラマのちょい役で出たのを見たら、驚くほど良かった。でも、役に馴染みすぎて、あと一歩記憶に引っかからない。この人はそれほど芝居は上手くないが、顔といい、舌足らずの声といい、記憶に引っかかり、いつの間にかしっかりと存在感を出している。もちろん、こうやって、あ、あの連載だと楽しみに読ませる、人柄やバックグラウンドもある。ちょっと羨ましいなあ。

 san*****

坂を上るのは辛どくて時間がかかるが、下るのは転がるようにあっという間に落ちてしまう。
一度落ちるとはい上がってくるのは地獄の沙汰。その代わり、這い上がってきたときには、とてつもなく強くなってる。
松尾さんも、地獄をみてきたからこそ、そしてそこで良い出会いがあったからこそ、今、味のあるお芝居ができるのですね。

 the*****

面白い!過去回一気読みしてしまいました。
どこまで編集者の手が入っているのかわかりませんが、人物描写、主観と客観のバランス、子供時代のエピソードのはさみ方など「読ませる」技術を感じます。役者業の傍ら、脚本の勉強もされていたのでしょうか?
順序が逆ですが、役者としても注目していきたいと思います。

 anh*****

わたしも、ちょっと間違うとこんな感じになる、借金は簡単にできる。
同じかなぁ

 jos*****

この人 モテると思う

 chinkoro

自分見てるみたいで泣けた
事情は違うけど40手前くらいから5年どん底だった
あるきっかけで持ち直した
今年50になります

 nir*****

ついつい読んでしまう飾り付けをしてない話♪

 tak

すげーな。凄まじい。ここから這い上がれたことが凄いわ。

 芸のためなら

ドラマ「SP」の山本役、大好きでしたよ、松尾さん。
映画のリハーサルでお遊び中にケガしてましたね。これからも応援してます!

 

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