是枝裕和監督、『万引き家族』は「スイミーを読んでくれた女の子に向けて作っていると今わかった」(AbemaTIMES)

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 6日、カンヌ国際映画祭で日本映画として21年ぶりに最高賞の”パルムドール”を受賞した『万引き家族』が公開されるのを前に、是枝裕和監督が日本外国特派員協会で会見を開いた。会見で是枝監督は作品の根底に流れる思いやカンヌ受賞後の自身を取り巻く状況、さらに”次回作”についても言及。この日56歳の誕生日を迎えた監督に、ケーキが贈られる一幕も見られた。

ーー監督ご自身がブログで作品をめぐる批評や様々な状況について言及されました。作品に対しては、海外の観客やジャーナリストから日本の貧困問題に関する質問が集中しましたが、これに対しての考えは。

是枝:僕自身は政治的・社会的な問題を喚起する目的でこの映画を作ってはいないので、そのようなリアクションが起きるとは思っていませんでした。特にカンヌにいる間に来たジャーナリスト、審査委員の方たちとの話し合い中で出てきたのは、”演出と役者とスタッフ、全ての調和が取れていた”と褒めていただいたことで、それが何より嬉しかったです。特に審査員の中の女優さんたちがこぞって出演している女優たちを褒めてくれたのが心の底から嬉しかったです。

 2000年代に入って、頻繁に海外の映画祭に参加するようになりましたが、そこで一番言われたのが、「日本映画には社会と政治がない、なぜだ」ということです。ある種、批判的に言われました。実際、特に国際映画祭に参加するような日本映画に、きちんと社会や政治状況を取り込んだ、それらを題材にしたものがそれほど多くなかったというのが現実だと思います。そういう作品が興行として成立しにくく、あえて言いますが、大きな配給会社がやってこなかったからだと思います。それは本当です。企画を提出しても、「ちょっと重たいんだよな」とか、まずそういうジャッジをされて進まなくなるという状況が頻繁にありましたから。それが欠点だとは言いませんけれども、海外の映画祭で日本映画の幅を狭くしているというのは自覚していました。

 僕自身は2000年代後半からファミリードラマにこだわってきて、むしろ政治的・社会的状況は後ろの方に下げて、家の中の問題、自分が父親になって切実になった問題を、狭く深く掘ってみようと意識的に続けてきました。ただ、ここ2作は自分の中で少しファミリードラマにピリオドを打って、社会性とか、現在の日本が抱えている問題の上に家族を置いてみて、そことの接点をどういう風に描くか、そこで起きる摩擦をどう見るのか、ということをやってみたいと作りました。それが今回の作品と今までの作品が違う一番大きなところだと思います。ですので上映後、ジャーナリストたちからの質問がいつもと比べると多少多かったかなという実感は持っています。21年ぶりのパルムドールということもあって、思った以上に色んな場所でこの映画が取り上げられて、映画について普段語らない人たちも語るような状況が起きているものですから…一部では、何か僕と僕の映画が物議を醸しているような状況にもなってるんですけども(笑)。

 そういう意味では、一本の映画が公開されて劇場で観られていく、という通常の枠を越えて多くの人の所に届いているんだなあと、個人的にはすごく前向きに捉えているんですけど(笑)。

ーー実際に釣り竿を万引きした家族のことが報じられましたし、脚本を執筆するにあたって、どのような研究をしたり、人に会ったりしましたか。

是枝:実際の事件をもとに作ったというわけではありませんが、ここ数年の間に家族を巡って起きたいくつかの事件を参考にはしました。

 今回の作品では血縁=血の繋がりではない繋がりを持っている家族を描こうと思い、そこから”犯罪でしか繋がれなかった家族”というアイデアが生まれました。そして年金詐欺、年老いた親が亡くなった後、その年金を頼りに子どもたちが暮らしているという状況をベースにしてみようと。さらに、その家族が優しさで集まっているのではなく、お金目当てで集まっている。最初のモチベーションをあまり優しいものにはしないようにしようと思って、そうしました。

 もうひとつは、家族で万引きしたという事件の裁判が始まったというニュースがありました。なぜ捕まったかというと、盗んだ物の中で釣り竿だけ家に置いてあったからだと記事に2、3行書いてあって、それがすごく引っかかっていたんです。多分、これは釣りが好きで、きっと盗んだ親子で釣りをしたんだろうと思いました。釣具店さんには申し訳ないんですけど、盗んだ釣り竿で釣りをしているイメージが最初に浮かびました。結果的にストーリー上、シチュエーションは変えましたが、映画の中で親子が釣り糸を垂らしているシーンは、最初に浮かんだそのイメージです。

 それから今回の取材で一番印象に残っているのは、親からの虐待を受けて施設に収容され、そこから学校に通っている子どもたちの取材に行ったときのことです。ちょうどランドセルを背負って帰ってきた女の子に「今、何の勉強してんの?」と話しかけたら、国語の教科書を取り出して、僕たちの前でいきなりレオ・レオニの『スイミー』を読みはじめたんですね。施設の職員の人たちが「皆さん忙しいんだからやめなさい」って言うのも聞かず、最後まで読み通したんです。僕たちがみんなで拍手したら、すごく嬉しそうに笑ったので、「ああ、この子はきっと、離れて暮らしている親に聞かせたいんじゃないか」と思いました。

 朗読をしているその女の子の顔が頭から離れなくて、すぐに少年が教科書を読む、というシーンの台本を書きました。

ーー政治指導者からのお祝いの言葉が無かったということですけれども(笑)、監督の頭の中に、観衆として政治を生業にする皆さんや官僚の皆さんのこともありましたか?

是枝:ありませんでした。

 テレビをやっていた時代、先輩に「誰か一人に向かって作れ」と言われたんですね。「テレビみたいに不特定多数に向かって流すものほど、誰か一人の人間の顔を思い浮かべながら作れ。それは母親でもいいし、田舎のおばあちゃんでもいいし、友人でもいい。結果的に、それが多くのひとに伝わる」と。20代の頃に言われて、今もずっとそうしています。

 今回は…今言われてはっきりわかりましたけれども、スイミーを読んでくれた女の子に向けて僕は作っていると思います。

ーー花火のときの家の俯瞰ショットが大好きで、是枝さんらしいと感じました。『歩いても 歩いても』『海街dialy』でも、住まいが一つの主人公になっていると思っています。その中と外、境目である玄関、そういった家についてのこだわりについてお伺いしたいです。

是枝:”見えない花火”を見上げるシーンについては、授賞式後のディナーで審査員のチャン・チェンも「一番好きだ」って言ってくれました。

 今回の映画は彼ら、とくにケイト・ブランシェットさんの言葉を借りれば「invidsible people」、見えない存在として社会のなかで生きている存在を描きましたけど、映画の中には”見えない・聴こえない”モチーフがたくさんあります。花火が見えない。ガラス越しに相手が見えない。呟く声が聴こえない。いろんな形で”見えない・聴こえない”ものを、観ている方たちにどう想像していただくかというのが全体を通じたモチーフとして強くあったと思いますが、おそらくあの花火のシーンがその中心にあると思います。

 また、あの家が見つかったことは今回の映画の成功に大きく貢献しています。「周りを高層ビルに囲まれた平屋の一軒家を探してくれ」っていうリクエストに応えてくれた制作部のスタッフはとても優秀です。家の内部はセットで再現していて、ロケと組み合わせて作っていますが、美術の力によって非常にうまく出来上がりました。自分でもどっちで撮ったかわからないくらい。見事にあの家に人々が暮らしているように見えているのが今回の映画では重要だったなと思います。家が主役だったのは間違いないと思います。

ーーコンペティション作品の中で、ご自身がパルムドールを差し上げとしたらどれでしたか?もちろん『万引き家族』でもいいですけれど(笑)。

是枝:上映後、とても評判が良くて連日取材が入りまして、他の監督の作品を全く観られなかったんです。なので、観た中では『万引き家族』が一番良かった(笑)。

ーーあるインタビューで読んだのですが、新企画が立ち上がりつつあり、英語での映画で、ヨーロッパで撮影するという話ですが?

是枝:次の企画…そうですか(笑)。まだ正式発表をする前の段階のところで、なぜか情報が漏れている状況でして(笑)、どこまで喋って良いのかわかりませんが、秋に、主にフランスの役者さんたちと映画を撮ろうということになっていまして、6月の終わりくらいから僕がパリに渡って準備を始める流れにはなっていますが、具体的にはよくわかんないんだよね…。まだ全然発表してないのに、キャストのギャラまで載っているという状況で、ちょっとびっくりしてるんですけど(笑)。このくらいで勘弁してください。来月くらいには、きちんと制作発表を開くつもりでおります。

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